FML理事会で日本抗加齢医学会の報告
6月に開催したFML理事会では、5月29日~31日まで開催された第15回日本抗加齢医学会総会の報告が行われました。
男性型脱毛症の遺伝子診断系への新しい試み 井上 肇(FML事務局長、聖マリアンナ医科大学幹細胞再生医学(Angfa 寄附)講座 特任教授)
5月29日(金)にアンファー株式会社共催による「ランチョンセミナー11 」(座長:F.M.L.副理事長・塩谷信幸医師)の中で、井上肇先生が「男性型脱毛症の遺伝子診断系への新しい試み」というテーマで講演しました。
AGAは男性ホルモンであるテストステロンが5α‐還元酵素によって活性の強いジヒドロテストステロン(DHT)へ代謝され、毛包の萎縮を招くことによって発症すると考えられています。したがってこのDHT機能を低下(拮抗薬)もしくはDHTの合成を阻害(酵素阻害薬)するような薬物の投与で、少なくともAGAの予防もしくは進行の抑制が可能になるとのことです。
この5α‐還元酵素には大きく分けて2つのイソ酵素(1型、2型)が存在し、AGAに効果があるとされる薬剤、フィナステリドは2型5α-還元酵素を特異的に阻害するといわれています。またAGAに特徴的な頭髪の退縮部位(前頭部および頭頂部)に強く2型5α‐還元酵素のみが発現していると思い込まれていた結果として、巷でフィナステリドがAGAの特効薬とされているということです。 ところが近年開発された5α‐還元酵素阻害薬であるデュタステリドは、非特異的に1型、2型どちらのイソ酵素も阻害する AGA治療薬として、近日中に販売される予定です。井上先生いわく「今後はこの両者の薬剤の微妙な作用機序の違いを巧みに利用して、AGA患者の症状に合わせた適正使用が求められている。」ということでした。
そこで井上先生の研究チームは、この2種類の5α‐還元酵素およびアンドロゲン受容体遺伝子の毛髪における発現を定性/定量化をすることで、AGA治療の標準化の試みを始めたということです。
すなわち、このフィナステリド、デュタステリド2種類のAGA治療薬を、5α‐還元酵素阻害の活性力のみで評価し漫然とした使用を行うのではなく、患者個々の頭髪の標記遺伝子群の発現量、分布、AGA症状の程度(Norwood-Hamiltonの分類など)から両薬物の選択を可能とする診断技術を発明したと発表しました。 これは同時にAGA発病の予測を可能にする方法になりえる可能性もあり、今後そのような予測検査としても検討をしているとのことです。
頭皮マッサージが毛髪に及ぼす影響の検討 小山 太郎 (FML理事・メンズヘルスクリニック東京 医師)
F.M.L.理事の小山太郎先生は、頭皮マッサージが毛髪に及ぼす影響を検討した研究結果を発表しました。 本研究は、NPO 法人Future Medical Laboratory (近未来医療研究会、理事長:武田克之・徳島大学名誉教授、以下、NPO 法人F.M.L.)、日本医科大学、アンファー株式会社との共同研究として行われたものです。
この研究の背景には、AGA に悩む男性の多くが頭皮マッサージを行っていたり、頭皮マッサージが発毛には良いとしばしば聞いたりすることがあるのに対し、頭皮マッサージが毛髪に及ぼす影響を充分に検証した論文はこれまで、皆無と言ってもよい状況でした。これには頭皮マッサージによって毛髪が変化するメカニズムに関する論拠の乏しさ、頭皮マッサージを一定化して継続することの難しさ、頭皮マッサージの効果を客観的に評価することの難しさ、の3つの理由があります。
そこで小山先生らの研究チームでは、頭皮マッサージを、毛乳頭を包み込んでいる毛包への物理刺激の伝達手段と捉え直し、一定の物理刺激を毛包に加えることで、効果を客観的に評価する次の試みを行いました。 健康な男性9人(34±8歳)に協力を得て、頭皮マッサージ器(EH-HM96,Panasonic製)を使用し、側頭部の片側だけに毎日4分間、伸展刺激を与え、4週、12週、24週後の毛髪の本数、毛径(太さ)、伸長率(伸長速度)を比較しました。また、頭皮マッサージが毛包の存在する皮下組織にどのように物理刺激を及ぼしているかを検証しました。 1日4分の頭皮マッサージ開始から24週の時点で非マッサージ部位においては有意な変化はありませんでしたが、マッサージ部位では毛髪の本数、伸長率に変化はみられませんでしたが、毛径は有意に太くなったことがわかりました。
以上の結果から、毛髪の本数や伸長率には明確な影響は見られなかったものの、頭皮マッサージを継続的に行うことにより、毛径(毛髪の太さ)は太くなり、また、頭皮マッサージが毛包にも力学的影響を及ぼしうることが明らかとなったと発表しました。さらに、今回の研究で頭皮マッサージが毛髪に与える影響の一端を解明することができました。
今後は頭皮マッサージが毛髪、毛周期に及ぼす影響などをさらに詳しく検討していきますと今後の展望を語られました。